京阪電車関目駅で下車して、駅前の小さな商店街を横切ると、古いアーケードの 商店街があります。その中に確か古書店があったように思うものの、古書店地図に も出ていないのですが、とりあえず、行ってみることにしました。歩いてみると、 新刊書店が一軒と、○○書店と書かれた閉まった店舗がありましたが、ここが古書 店だったような気がします。といっても、こちらも新刊書店だったような気もしま すし、以前も閉まっていたようにも思えてきました。このアーケード街は、当時か ら少しさびれた感じがしていたのですが、今回はさらにその傾向が強まっています。
駅のほうに戻って、グリーンハイツ関目という大きなマンションのある方に歩い てみました。当時は花博通りという名前があったかどうかも定かではありませんが、 街の様子は以前の面影を残しているように思われます。夕方に行くと、警察学校か ら出てくる柔道の選手風の大柄なおっさん連中と、私立の女子中高生、短大生の女 の子達がたくさん逆方向から歩いてきていて、とても賑やかな街に思えたのですが、 今回は少し時間が早いので、そういう風景には遭遇しませんでした。グリーンハイ ツの方に出てから、裏道を引き返しました。以前はちょっとした時間つぶしに、こ のマンションの各棟各階を昇ったり降りたりして、色々歩き回っておりましたが、 今回は千林まで行くつもりですので、急がねばなりません。国道一号線に出て、京 阪電車から見えている新しい古書店へと行ってみました。おそらく最近できた店だ と思います。
京阪から見えていたのは、BOOKパステルという店で、明るい新刊書店風の店でし た。漫画や文庫本、一般書など、どれも新しい本が中心ですが、どこかお金を賭け た品揃えだなぁという気がしました。こういう新しいタイプの店で思うのは、日焼 けした一昔前のベストセラーばかりを並べている店がある反面、しっかりと品物を 集められたと思える店がありますが、ここはまさに後者の典型に近いと思いました。 ゾッキ本も多量に積まれ、その中で『歴史読本特別増刊事典シリーズ 21 日本「 日記」総覧』新人物往来社1994年(\1800→\800)を購入することにしました。あと 単行本はそんなにたくさんならんでいた訳ではありませんが、売れ筋が厳選されて いる気がしました。その中で少し興味の引かれたジャック・ケルアック『孤独な 旅人』新宿書房1996年(\2400→\1200)を購入することにしました。
ここから国道一号線を森小路方面へと歩きました。まずは前日閉まっていた千賀 書店ですが、入ってびっくり、かなり大きな店のようです。外から見ると普通規模 の古書店だと思っていたのですが、奥行きの深い店内に、5列通路で本がぎっしり と並んでいます。レジも二つあり、入口に近いレジでは、アルバイト風の男の子が 「いらっしゃいませ」と言っていました。そういう所はBOOK OFFに似ているかもし れませんが、店の雰囲気は従来型の古書店だという気がします。従来型の古書店で も、広く通路をとり、ゆとりを持って書架を配置して、本をたくさん置かない店と、 可能な限りぎっしりと本を並べようとするタイプの店がありますが、ここは奥深い 広い店内に所狭しと本が並んでいます。マニアの人にはこたえられない空間でも、 慣れない人は少し入りにくいだろうと思われますが、地元の中高生、おじさん、お ばさん連中など、かなりの客も来ていました。梅田や難波の古書店では、次から次 へと客の出入りがあり、狭い店内に客が何人もいるということはさほど珍しいことで はありませんが、こういう地元に根差した町の古書店で、こんなに客が来ているの を見たのは、初めてだという気がします。 「値段の書いてない本は奥のレジで尋ねてください」という貼り紙があり、奥に は店主がおられるようです。高校生が漫画の本のことを尋ねてもとても親切に対応 しておられました。こういう親切な対応が繁盛の基盤をつくっているのかもしれません。
端から端まで、一時間近く、本を見ていました。漫画や文庫本、一般の単行本か ら、哲学系歴史系文学系と、それぞれそれなりに本があるように思いました。アダ ルト関係も通路一列分ぎっしりと並んでいます。全集関係で目についたものをメモ しましたが、『ショーペンハウエル全集』8万円、『荷風全集』29冊3万円など、 それぞれ値段は安くないかもしれません。また、一般に絶版の文庫本など相当高値 で売られますが、ここもその例外ではありません。例えば、岩波文庫で最近復刻さ れすぐに版切れとなっているというベルクソン『哲学的直観』に800円の値がついて いました。定価の倍以上ですが、世間では、これが相場通りと言われ、勉強熱心な 古書店だと言われるのでしょうが、こんな新しい文庫に絶版もへったくれもあった もんではないと、手前勝手な話しながら、私はこういう古書相場には、投機的な色 合いを感じてしまって、どうも納得いきがたいように思ってしまいます。百円均一 とは言わなくても、せめて定価程度ならば、売られゆく本もきっと喜んでくれるで しょうし、書籍が持っている文化の伝承者伝播者としての使命も十二分にまっとう されるように思われます(笑)。
かなり本を手に取って見ていたので、何か買って帰ろうと思いましたが、欲しいと思う 本はたいていそれなりの値段がついており、なかなか購入の決め手となるものが見 つかりません。このまま帰るのも憚られますので、「別冊宝島」などを数冊購入す ることにしました。だいたい定価の半額です。値段の書いてないものもあったので、 値段を聞くと、普通は定価の半額でも、定価の安いもは一律500円だそうです。市 場で仕入れる場合もあり、これが現在の採算ラインだとおっしゃっていました。あ と、「三才ムック本」も定価の半額でしたので、電話や裏もののシリーズを若干購 入しました。この手の本も、かなり品物を揃えているようです。とても親切に対応 して下さるので、また、行ってみたいと思っています。
前日訪れた尚文堂書店ををやり過ごして、千林商店街に入り、川端書店、楠書店 を一巡しました。そして、古書散策には不似合いな「せんばや〜し商店が〜い」と いう男性コーラスの歌う賑やかなテーマ曲を聞きながら千林商店街を、今市商店街 へと向かいました。今市商店街に来ると、同じ続きのアーケードの商店街といって も、千林とは様子がまったく異なります。あちこち空いた店舗の跡が残っていて、 斜陽の感がぬぐえません。どちらも駅に近くて、便利な所だと思うのですが、人の 流れというのは本当に不思議なものです。
前日に閉まっていた空閑文庫を探しましたが今回は見つかりません。もう一度戻 って探すと、同じくシャッターが下ろされたままでしたが、活気がないとは言え、 時間帯が早いせいか、人通りもあり、隣の店舗の商品の影に隠れて、うっかり見過 ごしてしまったようです。掲げられている商店街の地図を見ても、空閑文庫の名前 はありませんでしたので、もう既に以前から廃業されていたのかもしれません。
そうしてやっと、山口書店にたどり着きました。前日にも来ているので、とりあ えず店内を一巡し、本を選んでいきました。まずは、持っていたかどうかで買うの をためらっていた本ですが、『カント』中公バックス世界の名著1987年(\1500→ \500)や、W.ヤンケ『実存思想の軌跡』富士書店1985年(\2200→\700)など。あと、 山頭火関係、道元関係を若干購入することにしました。そして、一番迷っていたの は、少し値の張るアームストロング(高尾利数訳)『キリスト教とセックス戦争− 西洋における女性観念の構造』柏書房1996年(\4841→\3000)。新しい本ですので、 こんなものかもしれません。キリスト教よる性を罪として抑圧する構造を探るとい う面白いテーマなので買って帰ることにしました。
こういう具合に、なんやかんやと色々と関係のない本ばかりを買ってしまったよ うです。結局、一番の収穫は、前日に買った「カント全集」の端本かもしれません。 それにつられて、ちょっとした興味の連鎖が広がり、二日続けて来てしまったとも いえなくもないでしょう。とはいえ、今回私が購入した一連の本(哲学・宗教系) は、おそらく一人か二人の人の処分本ではないかという気がしています。値段設定 から考えても、お店としてこの手の本を揃えておられるようではないので、運良く そういうめぐり合わせに遭遇したといえるのかもしれません。持っていたので、 買わなかった本ですが、1996年10月に出たばかりの『キェルケゴールを学ぶ人のために』 世界思想社(\2300→\1000)がまったくの美本のまま出ていましたが、これなども、 きっと、「カント全集」やアームストロングの本などとともに、同一人物が処分さ れたものだと想像しています。
このまま帰ろうかとも思いましたが、時間が早かったので、あと少し歩い てみることにしました。一号線に出て、守口市へと歩きました。駅のほうに出ると、 ひまわり堂書店にたどり着きました。いうも京阪の車窓から見えている古書店 です。何度か来たことはあるのですが、来るたびに定休日だったりして、入ったの は今回が初めてでした。ここはどちらかというと、明るいタイプの古書店ですが、 それなりに奥深い店でした。リサイクル系の本が多い中、ここでもさらなる大収穫 がありました。その中心は哲学系の端本などですが、例えば、「ショーペンハウア ー全集」白水社13巻(\1000→\200)、14巻(\1500→\200)や、単行本で『意志と表象 としての世界 正編1』(\900→\100)。「サルトル全集」人文書院では、『嘔吐』 (\680→\100)、『実存主義とは何か』(\580→\100)など。家に帰って調べると、『 実存主義とは何か』は他店で以前も100円で購入したことがあるようです。
これら哲学系統とは別に、一部のマニア向け雑誌のバックナンバーが格安で一般 書架の中に埋もれていました。マニア向けのコーナーにて普通の値段で売られてい れば、おそらく買うこともないのですが、格安であるゆえに、購入しないで帰るわ けにはいかない気分になってきます。こういう本は、おそらく一般の図書館で閲覧 することは不可能ですし、今後未来にわたっても、復刊されたり再刊されることも ないでしょうから、おそらく貴重な資料になるように思われます。例えば、『薔薇 族』1996年7月号(\1200→\100)ですが、以前にも一度、古書店で超格安で買ったこ とがあります。今回買ってみると、写真などが増えていて、何やらちょと直截的な 内容になってきたような気がしました。文通欄はいつものことながら、見ていて楽 しい気がします。同類の『さぶ』は、200円で出ていました。どうでも良いことで はありますが、この両者に何か編集方針の違いとか、読者層の違いなどがあるのか と、少し気になっているのですが、無線・ラジオ関係における『ラジオライフ』と 『アクションバンド』の違いのようなものなのかとも思ったりしています。如何が なものなのでしょうか……。私には、この手の趣味はないのですが、資料として持 っていても決して損はないように思われます。
今回も、古書店の梯子をしながら歩いてきましたが、実に色々と買ってしまった ようです。もはや収穫物は鞄には入らなくなり、持参のビニール袋に分散させて持 っていますが、かなりの重さもありますので、これにて古書店散策を終了すること にしました。京阪守口市駅から京橋に戻って、京都へと帰りました。今回の古書店 散策では、色々なものが格安で掘り出せて、本当に楽しい二日間だったと思い出さ れます。
散人