〜 信州〜神田古本祭り 〜 by 散人
関ヶ原から大垣、岐阜。バイパス道路をどんどんと走りすぎました。 犬山から日本ライン下りを横目に見て、美濃太田。 探せば古書店がありそうな町ですが、今回もそのまま通過してしまいました。
峠を越えて、木曽谷を北上。中津川へ来れば、もう夕方の気配が漂っています。 しばらく街をぶらぶら。ここも古書店がありそうな街ですが、 いまだ見かけたことがありません。 この国道19号線、中央線(JR)近辺は、途中下車やら、自転車やら、バイクやらで、 あちこち立ち寄った地域ですが、古書店に出会った経験があまりありません。 この沿線では、かつて、春日井市で車窓から駅の広告の看板を見つけて、 勝川古書センターという大きな古書店へ行ったことがある程度でしょうか……。 ここまで来れば、名古屋のベッドタウンなのでしょう。 大きな古書店で、非常に驚いたのを覚えています。 あと、多治見に古書店があるとのことですが、ここにはいまだ縁がありません。
それはともかく、山深い木曽路を進むうちに、日は暮れてしまいました。 昼間ならば、山また山、夜ならば、闇また闇の連続で、 毎度のことながら、その山深さに不思議な感慨を覚えます。 そして、塩尻に入ると、急に視界が開けて、人の気配が感じられますが、 BOOK OFF塩尻店は、まさにそんな所にたたずむオアシスのような気がします。 里に出た安心感からか、どこかほっとするものがあり、入ってみることにしました。 この店に来たのは三度目か四度目で、 かつては百円均一で色々収穫があったように思いますが、 今回は軽く一巡したのみで店を後にしました。
その後松本市内へ。浅間温泉に寄ってから、ドゥセカンドへ行こうとしましたが、 どこかへ移転した模様です。移転先わからず、BOOK OFF松本店へ。 ここも久々の来店でしたが、軽く一巡したのみ。 午後9時をまわっていましたが、客の出入りはあるようです。 松本の夜と言えば、ひたすら暗いという印象しかないのですが、 こういう明るい古書店があちこちに出来るようになるとは、 全く予想だにしなかったことです。
あと、数件の古書店を経て、細田書店。 今まで、ここの百円均一ではかなりお世話になっているのですが、 何かがあるときとないときの差がはっきりとあるように思います。 今回は、この棚を一目見て、何かがあるという予感がします。 一冊一冊、あれもこれもという感じで、今まで探していた本が出てきたり、 ついでだからと欲しくなった本など、10冊を厳選しました。 今回のメインは唐木順三の『無用者の系譜』『中世の文学』『三木清』(筑摩叢書)と、 『詩とデカダンス』(講談社)の4冊。前から機会があればと思っていた本でした。 それと、新しいものでは、藤原新也『アメリカ』情報センター(1990)も、 全くの美本が入手できたのも嬉しい限りでした。 ただし、この本、たしか以前に読んだ記憶があるのですが、 立ち読みだったのか、図書館だったのか、それとも、重複購入となったのか、 今のところわかっていません。 この他、新しいものでは、『征服戦争は是か非か』岩波書店(1992)は、 資料的な価値からも、軽く読んでみたいと思われましたし、 古いものでは、筑摩書房の現代日本思想体系『西田幾多郎』(1968)、 中村雄二郎『感性の覚醒』岩波書店(1975)、玉井茂『カントの散歩』勁草書房(1984)、 紀田順一郎『書物との出会い』玉川大学出版部(1976)も、 1冊100円のことですので、ついでに購入することにしました。 外税で5%の消費税を取られて、総額1050円となりましたが、 なかなかの収穫だったと思われます。 この10冊だけでも、ここまで来た甲斐があったように思えてきました。
八ヶ岳の雄大な姿を見ながら、富士見を出て、山梨県へ。 甲府近辺はバイパス道路を通過しましたが、 勝沼あたりは、葡萄棚が連なり、非常に雄大な山裾であることが感じられます。 笹子峠では、救急車到着前の悲惨な交通事故現場をすり抜けました。 事故のため、上下線とも車が通れず、対向車線は大渋滞で、 後続車は全くない状態でした。 峠を下ると、BOOK OFF大月インター店。店内をぶらついて少し休憩。 取り立てた収穫はなし。 そのうち、救急車やパトカー、消防車などが現場へとサイレンを鳴らして上っていきました。 相変わらず国道は事故車で道が通れないため、後続車がほとんどない状態でしたが、 救急車到着まで事故現場をじっくり見ていたほうが良かった気もしてきました。 つぶれた車からはみ出ていた足がふと思い出されます。 人間は常に死と隣り合わせで存在しているゆえにか、 そのような現場に関心が向くのかもしれません。
その後は小仏峠を越えて八王子。 以前は相模湖を経由したので、初めての行程となりましたが、 かなりきついカーブが多く、笹子峠の事故を思い出して、安全に気を払いました。 とは言え、死は人間のそのような気遣いとは無関係にやってくるものなのです。 延命にばかり気を取られるのも、なんだか虚しい気もします。 それはともかく、もう古書店をまわる気力はなくなり、 そのまま甲州街道(国道20号線)を進んで、新宿へ。 そして、この日の行程は終わりました。
たしか、「ほんだらけ」でしたか、 広い倉庫のような店内に、まさに店名の如く、本だらけだったのですが、 その中で、岸本英夫著『宗教学』大明堂を見つけました。 私自身は、著者の学者としての名声を知るわけでもなければ、 この本で習ったこともないのですが、 この著者のものは、引用や参考文献としてよく見かけ、 この本も単なる解説書の域を出た古典的な名著であるような印象を持っています。 それでいて、どこか、毒にも薬にもならない単なる解説書の元祖だという 気もしていたのですが、この本には、 「著者よ、汝の61年で何をなしたのか?」という書き込みが奥付にあり、 ちょっとした共感を覚えました。この手の本や講義で思い出すのは、 宗教とは何か?、宗教学とは何か?といったことを、細々と整理分類して、定義づけ、 なんだかわかったような、それでいて何もわからなかったような、 この一年間は何だったのかという妙な感慨にとらわれたことでしょうか……。 これを「学的」(wissenschaftlich)というのかもしれないと思いながらも、 どこぞの宗教で修行でもするか、お布施でもしているほうが、 有意義だというような気もしたのでした(笑)。
結局、この本は、値段も安くなかったので、買うことはなかったのですが、 この書き込みをもう一度見るためにも、 ぜひ購入しておくのだったと、少々後悔もしています。 その時は、どこにでもよくある単なるつまらぬ書き込みだと思ったのですが、 今から思い返せば、あの書き込みがどこか輝いているようにも思えてきたのでした。 聞くところによれば、岸本英夫氏(1903〜1964年)は、 1954年にアメリカ滞在中に癌の告知を受け、 その闘病記は、『死を見つめる心 癌とたたかった十年間』講談社(1965)として、 今でも読み継がれているとのことです。 それを聞けば、このような大先生の本につまらぬ書き込みをする人間など、 なんだかろくでもない人間であり、 そのような書き込みに興味を引かれた自分の浅学菲才ぶりに気付かされる思いがした ので、さっそく、図書館へこの本を探しに行きました。 すると、この本は、目録にはあったものの、書庫にはなく、「行方不明」とのこと。 少々残念であり、また、この「行方不明」という無責任な回答が面白くもありました。 おそらく誰かが手続きをせずに持ち帰ったのか、 それとも、返却しないまま連絡がつかなくなったのかもしれません。 なんだか、ろくでもない人間にこの本は借りられてしまったのでしょう。 イギリスの図書館でも、このような場面では、 stolenとは言わずに、missingという回答をしたように思いますが、 誰かに盗られた可能性もあるが、書架の隙間に紛れ込んでしまった可能性もあり、 文字どおりに行方不明だというのでしょう。何とも味わいのある表現です。 それはともかく、『死を見つめる心』はなかったものの、 『岸本英夫全集』を見ていると、第六巻に収録されているようなので、 一読することは出来ましたが、取り立てたコメントは控えておきましょう。 学者というのは、余程おいしい商売なのか、 世俗のしがらみへの執着が大きいのかもしれません。 本の内容を考えれば高いと感じたのですが、たかだか300円ほどのことですので、 もう一度あの書き込みを見るためにも、あの本を買っておけば良かったと少々後悔しています。
まずは第一勧銀前の青空市からスタートし、 その後は各店舗、古書会館は昼過ぎに行きました。 朝一番から、並ぶ人が出るというのは、この古書会館の古書市のようなので、 私は取り立てた目的もないので、後回しにすることにしたのでした。
青空市は、朝一番は、客足もそれほど多くありませんでしたが、 時間とともに、なかなかの盛況ぶりとなりました。 古本祭へ行ったのは今回が初めてでしたが、 青空市の規模は大きくないものの、 私の好きな格安本もあり、それなりの収穫もありました。 例えば、最近凝りだしたセリーヌについての伝記、 フレデリック・ヴィトゥー『セリーヌ伝』水声社(1997)が、 格安で入手できたのは嬉しい限りでした(\8000→\3000)。 先にこの本を手に取って見ていたおじさんがおり、 どうかこの本をそのまま戻しますようにと念じていると、 つまらなそうに放り出したので、私が手にするところとなりました。 また、セリーヌ全集の端本が1000円前後で売られており、 買おうか買うまいか迷ったものの、 結局揃えたい部分がなかったので見送りました。 値段的には超お買い得だと思われます。 たしか定価は3500円ほどですので、一般的には2500円〜3000円程度が相場、 何年かすれば、おそらく入手しにくいという観点から、 定価以上で売られる可能性が大きいシリーズかもしれません。
それと、以前、図書館で見て以来、是非とも購入したいと思い続けていた ロバート・パーシグ『禅とオートバイ修理技術』メルクマール社(\2800→\1700)が 入手できたのも嬉しい限りでした。 図書館では抄訳である新潮社版の古い訳本しか見ることが出来なくて、 メルクマール社版を是非とも読みたいと思っていたのでした。 「パイドロスよ、善きこととは何か、また悪しきこととは何か−− 私たちはこれらのことについて、誰かに問う必要があるのだろうか?」…… 善きこととは何か、悪しきこととは何かを問うのが倫理学であっても、 倫理学者がそれをわきまえているとはとうてい思えません。
収穫のメインはこの二冊といえるでしょうが、ついでに買った本としては、 古典的なものでは、岩波日本古典文学大系『方丈記・徒然草』(?→\300)、 ジョージ・ウドコック『アナキズムT 思想編』紀伊国屋書店(\1500→400)、 新しい本では、今年の1月発行という 佐伯啓思『現代民主主義の病理』NHKブックス(\900→300)や、 昨年発行の写真集『安曇野 アルプス山麓の四季』山と渓谷社(\2000→1000)などなど。 この写真集は、著者の署名入りで、ひょっとして自費出版ものかとも思いましたが、 山や木や花や、思わず奇麗な安曇野の風景写真に引き込まれてしまった感じです。
一日歩けば、買った本の重さも身に応え、 古本祭り会場には宅配便受け付けもありましたので、 信州などで買った本とあわせて送ることにしたら、重量が9キロとなりました。 バイクで持ち帰ると、雨にでもあって濡れてしまえば大事ですので、 ここで送ってしまうことにして、もう一度荷物を取りに帰って出直しました。
午前中はとても天気が良かったので、箱根を走り、 箱根では芦ノ湖近辺の丘でのんびりして、至福の時を過ごしました。 所々、渋滞があったり、風が出てきたりして、 古書店にはどこにも寄ることなく、そのまま帰路につきました。 朝の8時頃横浜を出て、京都に帰り着いたのは深夜0時をまわっており、 前半は、なかなか楽しいツーリングとなりましたが、 後半は疲れてしまって、いいかげん嫌になっていました。
97/11/1 11/4一部改訂
散人