この丸万書店から、北大路通りを自転車で数分西へ行くと、吉田文庫と西北書店 という小さな古書店があり、以前はたびたび訪れたが、西北書店は左京区岡崎の方 へ移転してしまった。当時の西北書店は、埃をかぶった古びた本が少し置いてある だけで、まったく流行っていない店であったが、時々、新しい文庫本が入荷される ことがあり、岩波文庫の美本を定価の半額で買えることもあった。
一方の吉田文庫は狭いけれど、所狭しと本が並んでいる店で、アダルト関係も多 く、商売熱心な店であった。たしか、犬と一緒に老夫婦が店番をされており、夕方 行くと、テレビの時代劇の再放送などをブツクサ言いながらよく見ておられたのが、 妙に印象に残っている。
ところで、今回の出町は、我が家から自転車で15分程度の所にある戦後の闇市を起 源とする商店街であるが、近年京阪電車「出町柳駅」の開業で大阪まで40分という便 利なターミナルとして生まれ変わろうとしている。かつては、京大をはじめ、同志社、 立命、府立医大などの大学町としての側面もあったと聞くが、立命は完全に郊外に移 転し、同志社、京大は一部が郊外に移転しつつある。
そんな栄枯盛衰が入り混じった出町柳であるが、古書店においても例外ではない。 出町から西(同志社方面)に歩くと、東亜書店、北御所書店とならんでいるが、どち らも小さく古い古書店である。最近は、滅多に立ち寄ることもなく、購入欲をそそら れる本に出会うことはなくなったが、1984年に奥崎謙三の『ヤマザキ、天皇を撃て!』 を購入したのが印象に残っている。初版は1972年の本であるが、思い出したように奥 崎氏のことが気になり出し、手に入れたいと思い出したのであった。たしか、1987年 に入ってドキュメンタリー映画が完成し、関連図書がたくさん発行されたが、やはり 時代の気分というものがあったのだろうと思えてならない。
同じく出町柳の西岸ではあるが、駅に近いところにある善書堂は、「栄」を体現す る古書店である。京都に残る唯一の本の質屋さんと言われていたが、貸しギャラリー もあるビルに建て替えられ、奥深い店内には人文系学術書などが、ぎっしりとなんで いる。京都では有数の店ではないかと思われるが、私の場合、意外とここで買い物す ることは少ない。それには、まず値段のことがあるが、品揃えがしっかりしているだ けあって、やや強気の価格設定である。それに店主の目が肥えているためか、いい本 にはすべてそれなりの値段がついており、掘り出しものが少ないことなどがある。ま た、店内はとても奇麗で、整理がゆきとどき、古書漁りのわくわくした感覚が味わい にくいのではないかとも思っている。
出町東岸にあるマキムラ書店も、新築店舗であるが、こちらは、よくもまぁこれだ け散らかせるかと思うほど、雑然とした店内である。品揃えもわりと多いが、印象に 残っている買い物はない。かつては市内の寺町に支店(or本店)があったが、こちらに 統合されたようである。
自分でつくっている蔵書台帳を検索すると、臨川書店で購入した本は48冊出て きましたが、いずれも京都古書研究会の古本市で購入したものでした。なかでも、 1994年秋の百万遍であった古書市では、臨川書店がやっていた岩波文庫の1冊100 円セールが印象に残っています。『枕草子』『古近和歌集』『芭蕉俳句集』『芭 蕉連句集』『芭蕉書簡集』その他、日本文学の古典などの美本がすべて百円均一 で放出されており、取り急いで読む気はないものも含めて、値段につられて、購 入してしまったようです。定価を合計すると13100円、それを100円×28冊、合計 2800円で購入したことになります。
まず初めに出会うのが至誠堂。近年、店舗をモダンなビルに新築した洋書屋さんで ある。人文系学術書に限って言うなら、おそらく関西一の品揃えではないかと思って いるが、真偽は定かではない。値段的には、丸善に比べれば、2〜3割り程度安いよ うに思われる。神田と比べれば、規模的には北沢書店を1/4程度にした感じである が、店の人は高慢なところがなく、とても親切である。近年購入した本には、NICOMA CHEAN ETHICS ロエブ叢書(\2750)、KANT DICTIONARY(BACKWELL/\3590))、FEAR AND T REMBLING(PRINCETON UNIV./\2820)などがあり、いずれも新刊本であった。
南へ歩くと萩書房。とても小さな店舗で、大衆小説や漫画などが多く、品物は少な かったように思う。何度か訪れたことはあっても、何かを買ったという記憶はない。 近くの上御霊神社にある小さな絵馬所には、ゆっくりと休憩できるベンチが置いてあ り、昼間から古老や予備校生がぼんやりしていたりするのが、印象深い。
そんな萩書房であるが、息子さん(?)が、左京区一乗寺に支店を開業し、そちら は、文学関係一般や評論など幅広く扱い、品揃えが豊富である。一乗寺は郊外の新し い学生下宿街であり、そちらがメインになりつつあるのかもしれない。また、京都古 書研究会の古本市では、必ず見かけるが、そちらも印象に残っている。
さらに、烏丸通りをさらに南へ進んで行き、同志社大学前にあるのが沢田書店であ る。地下鉄では今出川駅に近く、北大路駅から二駅目にあたる。前記の上御霊神社か ら裏道を通って行くことも出来るが、竹林や古木に囲まれた相国寺へと抜けると、こ こは室町時代さながらで、都心の真ん中であることを忘れさせてくれる。店舗はそれ なりの大きさはあるが、品揃えに印象が薄く、最近は行ったこともない。大学正門前 の古書店にしてはあまりにも活気がなかったように思う。
購入書籍の思い出としては、1985年夏に『抵抗の新聞人 桐生悠々』を購入した時 のことが印象に残っている。書物としては、単なる普通の岩波新書なのであるが、当 時、私は、信州・松本に在住していたこともあり、信州ゆかりの桐生悠々にちょっとし た関心を持っていたのであった。そして、帰省した京都の古書店で、たまたま見つけ たのが嬉しかったという、ただ、それだけのことである。
百万遍(今出川東山交差点)から東へと歩くと、まずあるのが吉岡書店である。2 階建ての古びた店舗ではあるが、人文系(哲学思想、心理社会学)、社会系(法経)、 自然科学系の学術書は、かなり充実している。店舗は大きくはないが、品物の回転は はやく、この界隈では最も要チェックの店である。店舗規模や風格では、出町の善書 堂や河原町の赤尾照文堂に負けるが、学術書の品揃えと回転の早さに関しては京都市 内では有数の店であると思われる。ただし、文学や歴史、美術、趣味系には弱く、関 心があわなければ、訪れ甲斐のない書店かもしれない。2Fは洋書部になっており、 人文、自然系ともに入っている。数年前のことであるが、修学院と一乗寺に文庫や廉 価本を中心とする支店を出していたが、現在は撤退した模様である。そのかわり現店 舗の東に仮設店舗を出しており、小説類や理系教科書、廉価本があったりする。
なお、私のウィトゲンシュタイン関係のコレクションのかなりの部分がこの吉岡書 店によるのであるが、哲学思想系をはじめ学術系の古書には、かなり強気の値段設定 で、定価の値上がりした書籍には、新しい定価が鉛筆書きで記されていたりする。一 方、小説類は安いものが多く、最近では奥泉光の『ノヴァーリスの引用』(\1300→\3 00)、『バナールな現象』(\1800→\600)などが印象深い。
東へ行くと、外山書店。社会科学系の古い箱入りの本が多いように思うが、私にと っては、あまり魅力がない書店で、文庫本を買う程度である。
そして次ぎにあるのが、井上書店であるが、こちらは店舗を改装して明るくなった が、一般的な本がやや多いように思う。最近ではトマス・ネーゲルの『哲学ってどん なこと?』(\2000→\1000)が印象深い。この本は、あまり有名でもなければ、とりた ててどうのということができないかもしれないが、英米哲学版の『ソフィーの世界』 とでも言えるように思えてならない。
井上書店から先は、しばらく古本屋はなく、京大農学部を過ぎると、千原書店があ る。ここも、古びた店であっても、品物は多いのであるが、回転が悪いように思われ、 時々立ち寄ることがあるものの、最近は何も買ったことはない。
そのすぐ隣が、竹岡書店。最近店舗を新築して、2Fまで店になったが、以前の方 が書架に並んでいた本は多かったように思う。ダンボールに入った本が無造作に積ん であったりして、客が見てまわれるスペースはかなり減ったようにも思われるし、最 近出来た衣笠の立命館大学前支店に、品物をまわしているのかもしれない。あちらは、 だだっ広い店内に大学生向けの教科書や参考書が無機的に並んでいるだけで、趣が感 じられない。古本市でお馴染みの京都古書研究会の中核的存在と聞くが、ほとんどこ こで買ったことはなく、私の趣味にあう本にはあまり出会えないように思う。
この辺りは、普通の住宅地区であると同時に、京大に近接するだけでなく、叡山電 車に添うように、京都工芸繊維大学、京都精華大学、京都産業大学などへの便もよく、 学生下宿街になっている。そういったことから、古書店も学生のニーズにあったもの となっているように思われる。
ここで忘れてはならないのは、なんと言っても福田屋であろう。私が最もよく利用 するのは、おそらくこの福田屋であると思われるが、吉岡書店よりも、人文社会系が 充実し、文学書、小説類、一般書もそれなりにあるように思われる。ここも回転がは やくて、欲しい本がある時とない時の落差が激しいが、3回に1度は、何か欲しい本 があるという感じである。
ここでも、私のウィトゲンシュタインコレクションの多くを購入しているが、中で も、末木剛『ウィトゲンシュタイン論理哲学論考の研究』(1:解釈編、2:注釈編)の二 冊で定価\9700を\6500で入手できたのは幸運だったと思っている。また、春秋社から 1986年頃出ていた「体系仏教と日本人シリーズ」の『無常と美』『遊行と漂白』(とも に\2500→\1900)などが入手できたのも嬉しいことであった。見田宗介先生などが編集 された弘文堂の『社会学辞典』の縮刷版であるが、初版が1994.03.15で、まったくの 美本のまま、1994.04.27に定価\4800にところを\3800で購入できたのも、有り難い。
福田屋では、献呈本をそのまま持ち込むどこかの大先生がいて、そういった着実な 仕入先を確保しているためか、こういう新本を安くで入手できることがよくあるよう に思う。
天野義智『自閉主義のために 他者のない愛の世界』新曜社を買ったのも福田屋で あったが(1991年)、この本との出会いは強烈で、今まで私が抱きつづけていた思いな どを、上手く思想化してくれているようで、目から鱗がとれる思いがしたのであった。 北原童夢『ボンテージ進化論』青弓社(\2060→\1500)など、そちら方面の本もいくつ か購入している。カルロス・カスタネダ『呪術師になる イクストランへの旅』二見 書房(\1950→\1700)、コリン・ウィルソン『現代殺人百科』青土社(\2270→\1600)な どの系統もある。その他、印象に残っているものといえば、山本哲士『超領域の思考 へ 現代プラチック論』日本エディタースクール(\3800→\2500)、岩田慶治『アジア の宇宙観』講談社(\4950→\3800)などと、書いていけばきりがない。詳細は別の機会 に譲りたいが、変わったところでは、小林広一『天才バカボン論』風塵社(\1400→\70 0)、伴田良輔『独身者の科学』河出文庫などもある。
福田屋から北へ少し行けば、山崎書店があるが、小さな店舗ながら、美術書などに 特色があり、髭面の店主の顔も印象深い。一般書もそれなりにあるが、最近ここで購 入した本はない。山崎書店も、京都古書研究会の古本市の常連店舗であるが、最近で は、古本市会場で、オウムの麻原彰晃本を購入したりしている(\50)。
(96/7/4)