友人に裏切られたり、信義を破られたりする心配もなければ、
公然たると、秘密たるとを問わず、
およそ敵というものに害を加えられる恐れもなかった。
お偉方やその寵臣に贔屓にしてもらうために、
賄賂を贈ったり、お世辞を言ったり、女を取り持ったりする必要もなかった。
不正ないし圧迫から身を守るために、
自衛手段を講ずる必要もなかった。
ここには、私の体を台無しにする医者も、
私の財産を食い物にする弁護士もいなかった。
誰かに雇われて、私の言行を監視したり、
私を陥れるために出鱈目な材料をでっちあげる密告者もいなかった。
ここには、冷笑者も、糾弾者も、陰口をきく者も、
スリも、追い剥ぎも、強盗も、弁護士も、売春業者も、
おどけた奴も、博打打ちも、政治屋も、才子も、気難し屋も、
退屈きわまる饒舌家も、論争家も、凌辱者も、
人殺しも、強盗も、学者もいなかった。
政党や派閥の指導者も、その子分もいなかった。
口先で誘惑するなり自ら実行してみせるなりして、
他人を背徳に陥れる者もいなかった。
牢獄も、首切り斧も、絞首台も、笞刑柱も、曝し台もなかった。
客を騙す商店主も、職人もいなかった。
およそ傲慢とか、虚栄とか、気取りなどというものは一切皆無であった。
洒落男も、空威張りも、酔っぱらいも、
街娼も、悪性の病気に罹っている者も見当たらなかった。
喚いたり、他の男に色目を使ったり、浪費したりするような女房もいなかった。
愚かなくせに鼻っ柱ばかり強い衒学者もいなかった。
しつこくて、横柄で、喧嘩ばやく、すぐ騒ぎ立てたり怒鳴ったりする、
そのくせ頭は空っぽで、自惚れが強くて、絶えず悪口ばかり言うような者も一人としていなかった。
悪徳のおかげで、どん底から立身出世した悪党も、
元来身分が高い者でありながら、
ただ美徳を実践しようとしたために、どん底に沈んだという者もいなかった。
……
(スウィフト『ガリバー旅行記』第四篇第十章)