古書センターの2、3階の中野書店で漫画を見るが、品揃えは相変わらずだが、値段も滅法高いので嘆息して店を出る。3階の湘南堂書店には、貝塚さんに教えて頂いた「遊」が売っていた。5階のみわ書房にも行くが、相変わらず「ゲラダヒヒの紋章」は無い。しかし、河合雅雄の全集に入ると思うので、昔のように焦る気持ちは無い。
古書センターを出ると、青空市に向かう。小雨が降っているのが、とりあえずやっているので急いで本を探す。人が多いのでゆっくり見れないので、見落としがあるかもしれないが、特に面白そうな本は見つからない。雨が次第に強くなってきたので、本が濡れないのか?と心配になる。店員が必死で本の上の雨を拭いているが、追いつかない。結局、青空市は休止になってしまった。しかし、取り合えず私は全部の棚を見終えることができた。昔の「マリ・クレール」の切り抜きで見つけてから良い顔をしていると思っていた、シャルロット・ゲンズブールの写真集を1000円で購入する。
青空市から小川町方面へ途中幾つかの書店を見ながら向かう。古書会館の古書特選即売会を見に行くためである。入口で荷物を預けると、他とは一味違う空気の流れる会場に入る。いきなり、ガラスケースの中に装丁で金属のレリーフが付いている18世紀の豪華本や、「不思議の国のアリス」の初版本が並んでいて驚く。値段は当然超高価である。
会場は、古い和書等が多く、趣味が西欧に偏向している私には今一つ興味がそそられない本が多かった。しかし、確か田村書店と書肆ひぐらしの棚だったと思うが、キクオ書店の目録に載っていたような豪華本がダーッと並んでいたのを見て、私は驚いた。まさか数万、数十万する本が何十冊もあるとは予想していなかったからである。ヴェラム革やモロッコ革の装丁や、銅版画や石版画の挿絵の入った本が沢山置いてあったのだ。ガラス・ケースに入っていないので、手に取って見ることができる。私は、それらの本を手に取って、ページを捲らずにはいられなかった。固い革の感触、ザラザラした紙の質感、その上に刻まれた黒いアルファベットの数々、そして美しい挿絵。複製され印刷されたものを見ても美しいと思わなかった銅版画も、本物は線のキレが全く違う。一本一本の線が鋭いのだ。印刷では銅版画の線は全く出ないということが良く分かった。石版画も、やはり非常に鮮やかな色をしている。これも印刷では出ないものだ。
そんな中、私が気に入った本があった。1916年にG.HARRAPから出版されたD.G.ロセッティが訳したダンテの「THE NEW LIFE」という本である。挿絵を描いたパウルという画家は知らないが、装飾や挿絵はラファエロ前派の雰囲気の濃厚なものである。装飾された頭文字や、様々な装飾文様が散りばめられ、黒い単色の線の美しい挿絵、そして16枚の彩色画が本を彩っている。ケルムスコットプレス風の書物に憧れている私には、堪えられない美しい本だった。
これは素晴らしいと思った私が本の値段を見ると12000円と書いてある。これは、並んでいる他の本と比べると極めて安い値段だった。本当にこの値段か、0が一つ多いのではないかと思って何度も値を見返したのだが、やはり12000円だった。私にも買えないことはない値段である。しかし、やはりこの値段の本を購入するのはかなり勇気がいる。私は、その場で暫く考え込み、悩んだ結果、やはり購入することに決めた。しかし、正直言ってこのような美しい書物が自分の手に入るというのは全く現実感が無く、勘定場に持っていく間もどこか舞い上がったような感覚がしていた。そして、代金を支払って古書会館を出ると本当に手に入ってしまったと思って嬉しくなってしまった。素晴らしい本を見つけ、手に入れたときの幸福感はやはり堪らないものがあると、いつもながら感じたのだった。
先程の本を買い、既に精神的に満足してしまった私だが、神保町に来る機会など余り無いので、いつものように源喜堂とブックブラザーを見に行った。ブックブラザーには、なかなかの写真集があったが、とりあえず買わずに源喜堂を見に行った。店に入ると、入口付近に前から欲しかったトレヴィルの小さな版の写真集や、ユージェーヌ・アッジェの写真集等が積んであり、洋書の棚には中世の写本等の図版がたっぷり入った騎士の本やレイトン卿の画集があった。普段なら即購入決定という本ばかりである。写真集の棚を見ると、少女写真集の古典沢渡朔の「少女アリス」があった。値段は4800円。版が違うが家の近くの本屋では15000円で売っていた。さらに、デビッド・ハミルトンの「IMAGES」が2900円で売っていた。中を見ると、丸善で新刊で買った「THE AGE OF INOCCENT」よりも相当良い。欲しい本が多くて悩ましかったが、このような時は手に入りそうにないものを購入するのが定石なので、「少女アリス」と「IMA-GES」を購入することに決めた。しかし、2冊で8700円、先程大枚叩いた私には相当きつい。
しかし、買わないで後悔するのは苦痛の極みなので、無理をすることにした。しかし、財布の中にはそれほどお金が残っておらず、この本を買うとこの後に控えているオフ会(偶然にもこの日、別のオフ会の予定が入ったのだ!)で足りなくなるかもと思い、お金を下ろしに行くことにした。郵便局の場所は九段下しか思い浮かばなかったので、私は九段下まで歩いたのだった。延々と歩きながら自分でも馬鹿らしいと思ったが、内心その馬鹿らしい無為な行為にヒロイックな喜びを感じたのも事実だった。さて、お金を下ろして再び源喜堂に向かうとすずらん通りに郵便局があった。行きにその前を通ったはずだった。気づかなかった自分の馬鹿さを呪ったが、一方で馬鹿らしい無駄な行為をしたことで気分が盛り上がったので気づかなくて良かったとも思い、我ながら馬鹿だなあと感じた。
源喜堂で写真集を買うと、今まで買った本と一緒に送ってもらった。オフ会の時間まで、まだ暫くあったので、三省堂の4階でいつものように中世本と写真集、美術書を見て廻る。中世の生活を再現した写真が載っている本があったのだが、今回は見送った。写真集では、ずっと欲しいと思っているサリー・マンの写真集とサラ・ムーンの写真集があったが、当然買う余裕は無い。三省堂を出た私は、雑誌が大量に売っているブックパワーRBに向かった。篠山紀信が安藤希を撮ったPANJAを探していたからである。「Namaiki」に余り彼女の写真が入っていなかったので、買い逃したのを悔やんでいたからである。私はこの写真で始めて篠山の凄さに気づいたのだった。すると運良くその号が売っていた。始めて店頭で見たときに驚愕させられた、ギロリと真っ直ぐにこちらを見つめる少女の眼を再び見れて幸福だった。
PANJAを手に入れた私は、幸福な気分でオフ会に向かったのだった。こんな幸せな日はそうは無いだろうと思い、自らの古書狂を再認識した一日だった。
[注] このレポートは、愛書家ホームパーティのLZFRさんによります。
e-mail: VEB02220@nifty.ne.jp