愛書家A氏の日常
5.A氏の没落
そんなこんな「絶好調」のA氏でしたが、没落は意外なほど早くやってきました。
それは、A氏の異動でした。氏は丸5年、出先職場にいましたが、官庁型組織の
例に漏れず異動の時期を迎えました。そして同じタイプの職場の長を熱望して、
念願かなって、昨年4月に異動となりました。
そして「自由時間捻出」にさっそく取り組んだのですが、新しい職場の二人の主任は、
有能というより「決まりごとを順守する」公務員タイプ。A氏のデタラメな勤務ぶりに
怯むことなく意見しました。これに対して、唯一長としての権威をかさに対抗するA氏。
3ヶ月ほどの攻防を経て、ある線での妥協が3人の間に成立したようです。
そして今年の4月。A氏は周りが「アッ」と驚く技を見せてくれました。主任2人を異動
させてしまったのです。しかし転任してきた主任2人と仕事をしてみて、逆にA氏が
驚く番となります。2人は前任者に輪をかけた「決まりごと順守タイプ」。前任2人
との間に成立した妥協ラインをはるかに突破され、ほとんど「大阪夏の陣」状況と、
小生は最近人づてに聞きました。まっこと、組織の決まりごとをまもるだけが目的の
官庁型組織のおそるべきしっペ返しです。
今回の職場で「定年」となるA氏。その有終の美を、氏なりに職場環境を整えて迎え
たかったのでしようが、その意に反して、厳しい現実。氏の心中いかばかりか・・。
実は、先日A氏を神田で見かけたのです。ポマードでピシッと決めたオールバックの
髪型が氏のトレードマークでしたが、心なしか髪型に乱れがあり、しかもいつもの氏
に似合わず、独りぼっち。思わず、これからの氏の人生の平安を、後ろ姿に祈念する
小生ではありました。
いまから考えると、小生はひょっとして、我が国有数の偉大なる愛書家にして、市井の
隠れた知識人、その人物が歴史のかなたに消え去る瞬間をまのあたりにしたのかも知れ
ません。
ああ・・、愛書家A氏。合掌。。。。。。
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愛書家A氏の思い出
1.A氏のミニ・コレクション
A氏は、対象をたまたま「本」として、コレクションすることにその人生の過半を費や
しました。そしてそれを「大義名分」として、職場生活・家庭生活を自分の意のままに
操作してきました。
しかし本。それこそ、人間の歴史と共に世界各地で出版され続けていますから、勢い
「枠」を定めることとなります。著者・装丁者・挿絵画家あるいは出版社など、まあ、
コレクションするにはオーソドックスなところです。
氏も「渋沢本」やら「芥川・直木賞本」など集めますが、特異なジャンルのコレクション
もあります。
◯吉川弘文堂本・・・ご存じ、歴史書関係を中心に出版する名門出版社です。A氏は、
この社の出版した単行本の全冊収集を目指しています。品切れ・
絶版本にはかなりの評価の付く本もあり、金にいとめをつけず、
利殖目的で収集するには、いい着目とは言えそうです。
◯旺文社文庫・・・・読書家にとっては、今は亡きこの文庫でしか読めない名作も多数
あり、興味の尽きない文庫です。氏はこの全冊収集を目指しており
あと30冊ほどまでになっています。もっとも、ちまちまと均一台
を覗いて探すのは氏の美学に合わないので、平然と*千円の価格を
つけて、棚に沢山並ぶ本屋で、一括買いしています。当時の掘り出
し物だとして「ル・コック探偵」を3千円で買ったと見せてくれた
ことがあります。(神田T書店平台で百円で掘り出したと言ったら
何!神田T書店。店長はバカだからな!一蹴されてしまった。業界
では、こわもてで超有名なのに・・・)
2.A氏の親切
A氏は「愛書仲間」に飢えています。どうしてこんな知的で利殖にもなる、手軽な
コレクションをしている人が少ないのか?と、嘆くことしきりで、時には活字文化衰
退、もしくは日本文化の滅亡の危惧まで、おぢさんらしく、「茶の間の正義」を振り
回す所まで、行き着いてしまいます。
そんなおり、仕事で知り合った小生と「愛書談義(A氏の一方的な)」そして「情報
収集(A氏の一方的な)」に、彼は喜びを見いだしたのは言うまでもありません。
そんな感謝の気持ちからでしょうか、A氏は探書行のついでに買い求めた、小生への
お土産本を、仕事で会うたびに持ってきます。授賞本やら、現在フィーバー本やらで、
「評価額の*割だったよ」といつて、小生から、ちろん代価を求めた上でくだされる
のです。
読みたくもない本を、買わされるこの気持ち。しかし、猫を愛玩する「良き上司」、
「良き家庭人」の、A氏のポーズに、仕事のお付き合いがあるだけに、もちろん
笑って支払い、にっこりとおしいただく、小生ではありました。(しくしく)
しかし・・・読みたくもない本。例によって「蚤の市(購入価格の半額)」→
「個人処分目録(同3割程度)」の流れで、やっと処分です。バリバリの愛書家
対象にこの価格での処分。授賞本やフィーバー本のビジネスがいかに際物か考えさ
せられることしきりではありました。
どこの業界でもそうでしょうが、フィ−バー前に入手しておいて、仕掛けて盛り上げ、
最盛期に売り逃げする。そんな「虚業」の世界です。
しかし、A氏。そのコレクションの過半をこれらの本が占めることを考えると・・・。
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