愛書家A氏の日常


1.A氏の社会的地位

 A氏は、某県庁の外郭団体の職員です。本庁から出向で派遣されたり、天下ったり
 して主要な地位を占める職員もいますが、あの「キャリア・ノンキャリア」の差別
 はなく、まずは本人の出世志向で地位に差がつくだけの、のんびりした職場です。
 A氏は勤続30年で今年53才、職員9名の小さな出先職場の所長。民間ですと、
 これでも課長とか支店長とか役職が付くのでしょうが、そこは外郭で準官庁。
 「課長補佐」というのが彼のポストです。

 しかし、これが彼にとっては絶妙のポジション。小さくても一つのセクションの長。
 長でありながら管理職ではない。そして出先職場。換言すれば、責任なくやりたいこ
 とがなんでもできるということにほかならないのですから。

 営利追及あるいは住民福祉の向上といった組織目的のない外郭団体での30年。
 彼がひたすら、仕事そっちのけで追及してきたものは「本を買う」「ステディな関係
 の女性を作る」の2点に尽きます。
 (と、二つ目の目的の達成ぶりは、本UPの視点からずれるので割愛。)

 そして、5年前はからずも、このポストについて、その「意義」を把握したときの氏の
 表情が目に浮かぶようです。

 氏は俄然「古書店巡り等をする自由な時間を作ること。」に熱中しはじめたのです。

 つまり、普通のサラリーマン愛書家のように土日あるいは就業後の古書店探索では、
 さほど旨味がありませんから、平日の日中に「探書」するための時間を捻出すること
 に置かれた立場を最大限活用していくことになったのです。

 それはたとえば、
 1.本社あるいは地域統括支店での会議が、午前中であれば「午後は事務打ち合わせ」
   とし、また午後であれば逆に午前が「事務打ち合わせとし」半日浮かす。
 2.土曜休日に、所長としての「会議」やら「仕事」があったとし、平日に代休を取る。
 3.通院やら定期検診と銘打ち、半日あるいは一日職場を抜け出す。

 というものでした。勤め人であれば、年次休暇を年20日取ることを保証されています。
 が、A氏にとっては「焼け石に水」、故に以上の企てが必要だったのです。

 そして実に年間勤務日数のうち半分は「探書」に費やすことができるとA氏は自慢げに
 小生に話すのでした。えっ「職場の長がそんなに職場を放棄していて外郭とは言え、
 大丈夫なの?」ですって。そこなんです。正に天の配剤というか、あるいは人事はお見
 通しと言うか、庶務関係の主任と事業関係の主任が極めて有能な人材で、ありていに
 言ってしまえば、A氏が「漫然と職場に常駐して「長」風吹かせるよりは、いないほう
 が順調」と「黙認」していたのです。

 それを知ってか知らずか、A氏は今日も古書街を行く。

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2.A氏の家庭生活

 A氏の住まいは、郊外の公営の賃貸集合住宅です。15年前、結婚して子供が出来頃、
 たまたま募集された、この住宅に運よくあたり入居できました。広さは3LDK。
 家族は、奥さんと30代で独身の長男・長女(いずれも会社員)、おっと猫が一匹。 
 
 この「猫」が彼にとっては重要な位置を占めます。

 中年の男性が職場でなにげない会話をする時には、「できる男」をほのめかすのは当然
 ながら、「やさしい上司」あるいは「立派な家庭人」をアピールするのも大切なことに
 なります。
 この時、自宅での猫の愛玩ぶりを話すことにより、この二つが同時に醸し出されます。
 仕事での付き合いの浅い人がこれを聞くと、心から「いい人」と誤解してしまいます。
 それだけに、付き合いが深まった後の、リアクションも大きいのですが・・。

 と話が横にそれましたが、家庭生活においても「愛書家」として、A氏はバリバリ行動
 します。

 まず、お小遣い。準官庁の課長補佐としていただく、お給金ですが、家賃は安く、
 子供も独立、ここに「将来の利殖もかねての古書収集」と奥さんに畳み掛け、実に
 月収の3割をいただいているのです。もちろん両手+片手を越えてしまいます。

 次に自由時間。職場での徹底ぶりは前回紹介しました。同様に、家庭でもA氏は休日の
 自由な時間捻出に取り組みます。

 世の亭主族は「パチンコ」「釣り」「ゴルフ」「休日出勤」など、ありとあらゆる理由
 で自由時間を確保します。しかし「それってありふれていない?」の世界ですよね。

 自称「ダンディ」でもあるA氏は「古書展へ行く」「神田の古書店めぐりをする」
 が理由で、本人は知的に自由時間を過ごすナイス・ミドルと自分を位置づけています。
 
 このように、職場そして家庭でも「愛書家」として、徹頭徹尾目的を達成ことののため
 だけに行動する、A氏の、買い求める本について、次回紹介します。

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 本UPのA氏は、実在の人物である。またUPの内容は、氏の名誉と探書行の妨げに
 ならないよう、「行動」以外は、結構変えてあります。

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