愛書家A氏の日常
3.A氏の買い求める本
A氏が買い求める本の規準は明解です。
◯普遍的な価値を持ち評価が固定していること。
A氏の古書収集の最終目的は「利殖」です。ですから、「安い本やら面白い本は、
いくらあっても屑」が、氏のモット−で、頭脳の中にインプットされた市場評価の
高い(と、氏が思い込んでいる)本のみ、買い求めます。
ですから、古書展ノワ向auても時間前から会場に並んだり、あくせくと棚をかき回し
たりはせず、せいぜい3冊、買い込んでも5冊、悠然と棚から引き抜いて買い求め
ます。もちろん安くても数千円、数万円のものも頻繁という買いっぷりです。
たとえば「直木賞」やら「芥川賞」授賞作の、初版・カバー・帯付き美などは、将来も
価値が変わらないと氏が信じて止まない本ですから、どんな値段でも持っていないもの
は、速攻で買います。そしてもちろん、家やら職場で自慢げに見せびらかすのです。
「いい本」を値段に躊躇なく買う愛書家。古書展の人込みに混じって、いつまでもぐず
ぐず未練たっぷりに探さず、つぎなる目的に向かう(つまり、ステディな女性のもとへ)
これがA氏の行動の基本です。
そんな氏に、大きな苦悩の念を抱かせた作家がいます。あの、「故 澁澤龍彦」です。
氏は大学時代は「運動部」に所属していました。ですから「幻想・怪奇」は氏の頭の
中では「きわもの」の世界で、特にこの作家は桃源社から初期の作品が出ていたことも
あり、「ゾッキ本出版社から出たきわもの作家」として軽蔑さえしていたそうです。
ところが作家が亡くなり、古書価がフィーバーし、合わせて評価も急上昇します。
そうすると、「利殖」が目的で「知性」が売り物の氏にとっては、この作家の本を買う
はめに陥ります。価格が最高値の時、氏は作家の著作のすべてを揃えたといいます。
たぶん、自慢げに周りに見せびらかすの時、表情にもじどおり「苦 澁」の色が浮んだ
ことでしょう。
そして、作家の著作を読むことによって、さらに苦悩は深まる筈ですが、それには至ら
なかったと思います。理由は明解です。氏が本を買うのは「利殖」のためであって、
読むためではないからです。
そんな氏の利殖のためのコレクターぶりを次回も紹介します。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
4.A氏のコレクターぶり
A氏が「利殖」を前提に、コレクションしていることは前回UPしたとおりです。
そんな氏にとって、古書目録は必要本確保の最も有効な手段の一つです。
これまで紹介したとおり、古書店の戦略に完璧にはまってくれる上玉のお客ですから、
目録は、大げさではなくそれこそ毎日ドカドカ届きます。これを漏れなく見て値段にか
かわらず注文するのが、大物コレクターA氏の重要な作業となります。そして、支払は
「古本屋への送金が少しくらい遅れても商売だから我慢しろ」と、上得意らしく自分勝
手な理屈を振り回しお付き合いしているようです。
◯蚤の市(;_;)
そんな氏と蚤の市。この会のことは、氏は以前から承知していました。しかし、ここ
が徹底しているというかすごいというか「情報に金は払わない」が氏のモットーで、
会員ではありませんでした。
その氏が、仕事関係で付き合いの出来た小生が会員と知ると「見せろ」です。
そして「通常価格の3割引あるいは半額の古書目録」としてどかどか買いまくります。
当然「古本屋への送金が少しくらい遅れても商売だから我慢しろ」と自分勝手な理屈
のやり取りを経てきた氏ですから、1ヶ月支払が遅れるなどザラ。これに会員相互の
親睦の一環としての古書交換と理解している会員が意見すると、逆上して喧嘩騒ぎ。
仲介に入った事務局で調べると「会員ではない」ことがわかり、急遽「会員外に回覧
禁止」のお達しが出るやら、憤懣やるかたない会員が「M市のAは不快。会員でもない
から諸子諸兄らお気をつけあれ」と投書やら、会報が賑やかに・・・。
元はと言えば、小生が氏に会報を見せたためということで、はらはらしどうしでした。
さらに、利殖が目的のA氏のコレクション戦線は、周辺を巻き込みながら広がります。
◯アイドルものポスター
例のお宝鑑定団に見るまでもなく、以前からコレクターが多数存在するジャンルです。
しかも、まさにフィーバー中。氏は仕事関係やら知り合いに頼んで「これは!」とい
うものは確実に入手します。
さらには「禁じ手」も。
外郭団体の場合「存在のあいまいな辛さ」ということもあり、広報には特にお金を
かける傾向がありますから、結構人気絶頂のアイドル・タレントを起用して意味不明の
ポスターを予算編成時期やら、年度末に作成してはり出すことがあります。
そんなポスターを、掲示せずすべて自宅へ持ち帰ってしまうのです。
◯美術館企画展目録
これも、相応価格での取引対象となりますし、なによりも「知性」の香りぷんぷんです
から氏にとっては外せないジャンルです。
職場の女性の兄が某有名美術館の学芸員であることを知り、上司の立場で「強要」し、
企画展ごとに目録をもらうなど、氏の面目躍如の行状でしょう。
こんな氏ですが、限られた「超過勤務手当」を、時間給が一番高い自分が休日出勤を
理由に確保するのではなく、替わりに代休を取る配慮のいきとどいた上司が自分である。
その上司がポスターやら目録をこうやって手に入れるのは、「お茶目」ぶりを披露して
いるに過ぎないと、自己弁護の哲学を持っているようです。
そして、今日も「お茶目」な大物コレクター、A氏は行く。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
先月末に発行された「別冊太陽」は、古書特集です。それも大判ムックの特色を活かし、
収集ジャンル別にカラーによる書影が盛り沢山。楽しめます。また「現役セドリ師」の
生活と意見も掲載されています。これが「**の店で**円でセドリして***円で
神田***へ売った」という話は皆無。ただ、ただ、日常生活の感想だけです。
すごい!プロ。
[続きを読む]
[愛書家A氏の日常]
Copyright (C) 1998-99 by OYAGI. ALL RIGHTS RESERVED.